*「子供の運動環境」*

畠山 勉(鍼灸・マッサージ師)

現在の日本において、体を動かす遊びやスポーツなど、子供たちが運動をする機会は以前に比べて確実に減ってきていると思います。それに伴い、最近の子供たちの基礎体力は昔に比べて低下していて、調査結果にも表れているようです。

子供の体力向上ホームページ(公益財団法人日本リクリエーション協会)にある、昭和55年(約30年前)の11歳と、平成22年の子供たちの「身長・基礎的運動能力の比較」を見てみると、〔身長〕〔50走〕〔ソフトボール投げ〕の全国平均値は、

《昭和55年》
 ※男子~〔142.9cm〕〔8.8秒〕〔35.1m〕
 ※女子~〔144.9cm〕〔9.0秒〕〔21.3m〕

《平成22年》
 ※男子~〔145.3cm〕〔8.8秒〕〔30.8m〕
 ※女子~〔147.0cm〕〔9.2秒〕〔17.5m〕

となっています。今の子供たちは、体格的には30年前よりも向上しているのに、体力や運動能力的には低下しているという状況にあり、さらに同じページに最近の子供たちは靴のひもが結べない、スキップができないといった自分の身体を操作する能力までも低下していると述べられています。

また、「週3以上、運動やスポーツを実施する子供の割合」の比較(11歳)を見ると、

《昭和55年》
 ※男子~〔69.2%〕
 ※女子~〔55.5%〕

《平成22年》
 ※男子~〔63.5%〕
 ※女子~〔36.6%〕

となっていて、当然平均値であるため個人差はあるでしょうが、女子の運動量の低下は顕著です。運動量の減少による子供の体力低下の原因について、子供の体力向上ホームページ内では、「保護者をはじめとする国民の意識の中で、外遊びやスポーツの重要性を、学力と比べ軽視する傾向に進んだことにある」ということや、「生活の利便化や生活様式の変化は、日常生活における身体を動かす機会の減少を招いている」といった点があげられています。

また、子供が運動不足になっている直接的な原因として、

  1. 学校外の学習活動や室内遊び時間の増加による、外遊びやスポーツ活動時間の減少。
  2. 空き地や生活道路といった子供たちの手軽な遊び場の減少。
  3. 少子化や学校外の学習活動による仲間の減少。

といった現状に触れています。

私たちが子供の頃のことを振り返ってみると、運動というより遊びですが、外で遊ぶということについて特に妨げになるようなことはなかったと思います。小学生であれば、放課後は毎日が遊び時間で、土曜の午後や日曜も多くの子供にとっては遊びに使える時間でした(今は週休2日制でも塾通いに使われる時間が増えているようです)。遊びの内容としては、友達の家の庭で遊んだり、神社に集まったり、海辺で遊んだり、遊ぶ場所に関しては、色々な選択肢がありました。

十分なグラウンドはなくても、限られたスペースで野球などの球技もできましたし、今思えば缶蹴りなどの子供の遊びも、隠れたり全力で走ったりと、かなりの運動量になっていたように思います。私は地方出身なので遊ぶ環境には恵まれていましたが、都会でも空き地などの子供の遊び場となる環境は、現在に比べれば数多く存在していたのではないかと思います。

今の子供たちが、同じように外で遊ぼうとしても、遊べる場所が激減してしまっています。空き地というものがほとんどなくなり、神社のような場所で自由に遊ぶことは不可能だと思います。昔は地域の子供たちが集まって色んな場所で遊んでいるということが、大人にとっても自然なことであったので、禁止されたり咎められることはありませんでした。遊び仲間も上級生と下級生が一緒になっていたため、上級生が指導的な立場をとることで、危険な行動や場所を避けることができていて、その経験は受け継がれていきました。今は大人数で自由に遊べる場所がなくなっているのに加えて、都市部でも地方でも治安上の問題から、大人の目の届かない場所で、子供だけで遊ぶということは不可能になっています。

今の子供たちの遊んでいる姿で一番目につくのは、携帯型ゲーム機(任天堂DSなど)で1人で遊んだり、数人で集まって遊んでいる様子ですが、実際に外で遊ぶのが難しくなっている状況においては仕方のないことかもしれません。そして、もしも今のような携帯型ゲーム機が私たちの時代にあったら、外で遊ばずにゲームばかりしていたかもしれません。大人がやっても面白い物が多いですから。ゲームばかりをしている子供たちを見ると「今の子供は・・・」と思ってしまいがちですが、子供に問題があるというよりは、そういった社会環境になってしまっているという現状があります(ただ、ゲームに依存し過ぎないように自制させるのは親の責任だと思いますが)。

子供たちの運動量を増やすためには、運動したり遊んだりする場所の提供が必要ですが、一般的な公園の多くは幼児から年配の人まで様々な人が利用するので、ボールの使用は禁止されていたり、走りまわることは難しい状況です。

そういった中で、子供が遊ぶのに適した場所となると、真っ先に思い浮かぶのは学校(小学校)の校庭だと思います。もちろん安全管理が必要なので、そのための人員が必要となりますが、教師や親に依頼するには負担が大きすぎるので、専門の管理者に委託するという方法が良いのではないかと思います。実際にそういった形で校庭を解放している学校もあるようです。

子供の遊びのための解放なので、特に運動を指導する人材は必要ないと思います。安全を確保された状況で、子供たちが自由に遊んでいいという場所を提供できれば、その中で子供たちが遊び方を考えながらやっていくのではないかと思います。

また小学校の校庭以外に、放課後の時間に使用されていない市営のグラウンドなどが存在しているのであれば、やはり安全管理を行った上で、子供たちに開放するといったことも考えて良いのではないかと思います。いずれにせよ、現在の社会環境においては、積極的に遊び場を提供していかないと、子供たちが外で遊ぶ機会を増やすことはできません。

小学校の時に遊びとは別に、スポーツ活動への参加となると、学校でのクラブ活動やスポーツ少年団ということになります。野球で言えばリトルリーグ、バスケならミニバスがあり、最近ではサッカー人気からサッカーチームに所属する小学生の数が増えたように感じます。

全国大会での勝利を目指して厳しい練習に取り組むチームがあったり、そのスポーツを楽しむことを一番の目的に活動しているチームがあったり、チームや指導者の方針のもと、それぞれの目標に応じて活動が行われています。これらの活動に関して、個人的に関わったことがないので、いいかげんなことは言うべきではないのですが、子供が野球やサッカーなどのチームに所属していた親御さんから、以前聞いた話の中に出てきた問題点だけを幾つか上げさせてもらうと、

  • 交代で当番があるので、共働きの夫婦では時間を作るのが大変。または、時間が取れないので子供を入部させられない人もいる。
  • 親がコーチに対して、選手起用について文句を言う。
  • コーチが極端に権限を持っていて、必要以上のことまで親に命令する。
  • 勝利至上主義のチームで、練習が厳しく、どなりながら指導している。

といったようなものがありました。現在でもスポーツ少年団などの中で、こういった状況があるとすれば、それぞれのチームでこれまで続けられてきた慣習も含まれると思うので、すぐに変えることは難しいかもしれません。子供や親が問題に不満を感じた場合、改善が難しいとなれば、他のチームに移る選択肢もありますが、通える場所に他のチームがなければ、せっかく好きで始めたスポーツを続ける機会を失ってしまいます。

このような問題に際し、今後、小学生のより良いスポーツ環境を目指す方法としてあげられるのは、以前の原稿でも触れたことがありますが、しっかりとした総合型地域スポーツクラブを立ち上げていくことだと思います。

総合型地域スポーツクラブであれば、まず第一に指導者がプロのコーチであるので、ずっと叱りながら教えるといった自分の経験だけに基づいて指導するコーチはいなくなります。以前にテレビ番組で、ヨーロッパのサッカークラブでの年少者への指導の様子を放送していましたが、その中のゲーム形式の練習で、コーチは1度も叱ることなく、子供たちのプレイを見ていました。その後、子供たちを集めて、様々なプレイについて何故ミスが起きたか考えさせて、他のプレイの選択肢を教え、その中でチームプレイの重要性まで指導していました。コーチは技術を教えるだけでなく、子供たちを指導するための知識や哲学も備えていました。日本でもプロのコーチでは資格取得が必要とされるため、コーチングの他にも様々な知識を身につけていることが前提となります。

試合での選手起用については、同じ年齢の子供でも能力に応じてクラス分けされるので、試合に出る可能性も高くなり、選手起用について親が口を挟む余地はなくなります。

練習や試合でのサポートも、地域スポーツクラブの運営の中で行われるので、親が必ず同行しなければならないという状況も、あまり見られなくなるはずです。

総合型地域スポーツクラブは、子供から年配の人までが好きなスポーツに関わっていける環境を提供していけるものですが、特に子供への指導やジュニア選手の育成の意味では、とても重要な役割を果たすことのできる可能性を持っています。
総合型地域スポーツクラブを作っていく上で、一番問題だと思うのは、国が何年も前から目標をかかげて国策として取り組んできたはずなのに、多くの国民に知られていないという現状だと思います。

文部科学省がスポーツ立国戦略を掲げ、その中の重要な位置を占めているはずの「総合型地域スポーツクラブを中心とした地域スポーツ環境の整備」といった施策を知っている人の割合は、どれぐらいなのでしょう。総合型地域スポーツクラブは、クラブ会員の参加によって成り立っていくものなので、将来の会員となり得る国民に対して、もっと情報を発信し、アドバイスや協力をうながしながら形作っていった方が良いのではないかと思います。

運動する機会の減少や、基礎体力の低下が今後も進んでしまっては、子供の健康的な心身の成長に大きく影響してしまうように思います。
11歳の小学生が5年後には高校生になり、10年後には成人を過ぎます。子供のことだからといって軽く考えてしまうと、ほんの少し先の日本の未来が少しずつ望ましくない状況になってしまうのではないかと勝手に考えてしまいます。

時代の変化に伴って失われてしまった子供たちのための環境は、今の時代に合ったものを意図的に作っていかなければならないと思います。そのために、予算や色々な手続きは当然必要となるでしょうが、日本の未来への投資と考えれば、それほど難しいことではないように思います。
(HOOPHYSTERIA BULLETIN 2011年12月号より)


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